還暦を迎えた私の父は、タレントで言うと泉谷しげるとか、内田裕也みたいな人だ。その豪快というかエキセントリックな言動は時に家族を翻弄し、昨年若くして亡くなった母も、随分苦労していたと思う。母が亡くなった今は、息子である私が父の面倒を見なければいけないのだが、父自身がそういうタイプの人だから、おとなしくしているわけがない。母の死後自宅を売り払うと、自分はさっさと駅から徒歩1分の賃貸住宅に移り住み、自由気ままな生活を送っている。

ところが先日、父の所を訪ねてみると、賃貸マンションのカギを勝手に交換したら訴えられたと面白くなさそうな顔をしていう。訴えられたなんて穏やかじゃないが、父に限っては何か理由がありそうだと息子ながらに感じる。事情を聞くと、鍵の調子が悪かったから、業者を呼んで鍵ごと新しいものに交換させたのだという。改めて見てみると、確かに両隣の部屋と明らかに鍵の形状が変わっていて、古い賃貸マンションには不似合いな、最新式と思われる錠前がついている。

賃貸マンションだから鍵に不具合があれば、管理会社に連絡するのがあたりまえだ。それに父のことだから、本当は鍵の不具合などではなく、鍵を紛失したのではないだろうか。まだ実家で家族みんなで住んでいた時も、父は何度か鍵を紛失したり、乱暴に扱って鍵を壊すということがあった。この賃貸マンションに住みだしてまだ4か月程なのに、もう鍵を壊すか失くすかしたのだ。

父は最新式の鍵になって満足だろうが、明らかに他の部屋と違うのだから、他の部屋の住人から問い合わせでもいったのだろう。管理会社から連絡が来たのだという。確かに鍵を勝手に交換したら、良くは思われないだろう。しかしそれですぐ訴えるというのも不自然な感じだ。それまでによっぽど近隣とのトラブルなどを起こしているか、訴えられたということが事実かどうかの確認もしなければならない。父は本当に手間のかかる人だ。