うちは代々大型犬を飼っていて、僕が生まれてからはコリー、秋田犬、セントバーナード、アフガンハウンドと続いている。大型犬はおおむね優しく頭が良い犬が多い。特にセントバーナード犬は大きな身体に反してとても心優しく、人間とも友好的な性格なのだそうだ。だが、うちのセントバーナードは違った。
子犬で我が家にやってきた時は、スリッパにすっぽり入るくらいの小さく可愛いパピーだったそうだが、母と祖母が生肉などを与えて育てたそうか、それはそれは獰猛な犬に育ってしまった。僕が生まれる前に飼っていた土佐犬用の太い手綱をつけて散歩をしても、出会う犬出会う人を脅かしまくるので父は困っていた。父の秘蔵っ子だった僕にはうなることさえしなかったが、近所でも恐れられている存在がうちの犬だった。
ところがある時我が家に来た泥棒は、自分の存在に気づいても全く反応せず、ただだらしなく寝そべっているだけの犬の怖さを知らなかった。1階の窓はほとんど格子がついていたため、足場をつたって2階の部屋の窓ガラスの鍵をこわし、まんまと侵入して物色。うちは地主で金持ちだったから、色々なものを盗めたのだろう。仕事を終えて帰る時に、元来た道を戻ろうとしたのが間違いだった。鍵を壊して侵入した窓はすぐ下が犬小屋だったのだが、泥棒はベランダから足を滑らせ、そのまま犬小屋の上に落ちた。そこに居たのはおとなしいと思い込んでいた本当はものすごく獰猛な犬。
セントバーナードはお昼寝を邪魔され激怒。泥棒の腕や脚を噛み、泥棒は重傷を負いながらも犬小屋とバルコニーの下の隙間に逃げ込み、一歩も出られなくなってしまった。その後家人が帰宅し間抜けな泥棒を発見。泥棒は父に助けてくれるよう、泣きながら頼んだそうだ。盗まれたものは全て戻り、壊された鍵も弁償させ、お手柄だったセントバーナードは、ますます近所で有名になったそうだ。